感度、特異度、精度という言葉が飛び交いつつ、話がかみ合ってないな、というのを見掛けたのでまとめてみます。
(医療者の言う)感度、特異度
検査の感度と特異度
検査の偽陽性や偽陰性の程度は,臨床研究で多数の患者さんに検査を⾏って調べます。まず,
最も信頼性の⾼い⽅法で病気の有無(感染症なら感染のある・なし)を診断し,病気のある群,
無い群での評価対象検査の結果を図のように集計します。病気がある群での検査の陽性率(真陽性率)を検査の感度,病気が無い群での検査の陰性
率(真陰性率)を特異度と呼びます。
いろいろ言葉が出てきますが、
- 真陽性:病気に感染していて検査の結果が陽性
- 偽陽性:病気に感染しておらず検査の結果が陽性
- 偽陰性:病気に感染していて検査の結果が陰性
- 真陰性:病気に感染しておらず検査の結果が陰性
- 感度:真陽性の人数/感染ありの人数=真陽性/(真陽性+偽陰性)
- 特異度:真陰性の人数/感染なしの人数=真陰性/(偽陽性+真陰性)
- 陽性的中率:真陽性の人数/検査で陽性の人数=真陽性/(真陽性+偽陽性)
- 陰性的中率:真陰性の人数/検査で陰性の人数=真陰性/(真陰性+偽陰性)
と定義されています。
また、正診割合という言葉もあるようです。
- 正診割合:(真陽性+真陰性)/全数
新型コロナウイルス感染症のPCR検査において、主に医師側は「特異度はほぼ100%、感度は70%ぐらい」としていて、それに対して「特異度も感度もほぼ100%」と主張し、異を唱える人もいます。
いいな氏の主張
いいな氏は生物学博士とのことで、ブログやツイッターでいろいろ主張していますが、上では出てこない「精度」という言葉を使って、「PCR検査の精度が70%なんてあり得ない」ということを声高に叫んでいます。
ですが、この「精度」の定義には疑問があります。
ブログでの説明
韓国での実際の数字から計算
2020.5.4の韓国の検査数は2948件。新規の陽性者は8人です。
つまり、きちんと陽性者か陰性者かを判断できているというわけです。
陽性者8人が真の陽性者だった場合の的中率(精度)は2940/2948x100=99.7%です。
検査人数は2948人、陽性者数8人(8人とも真陽性とする)。
この場合、なぜ「的中率(精度)は2940/2948x100=99.7%」となるのか理解できません。
この計算の分母は検査人数、分子は検査の結果が陰性だった人数ですが、どうしてこういう計算をするのでしょうか?
(これはブログのコメントでも5月7日に指摘されているものの、その後も修正はされていないようです)
例を挙げて計算
200人調べて、実際の陽性者30人、実際の陰性者170人だった場合を仮定します。
(中略)
検査1
検査1では、200人調べて、陽性者が20人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
※筆者注 図は割愛。真陽性20人、偽陽性0人、偽陰性10人、真陰性170人という内容
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=0人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=10人
なので、この検査の場合は 感度66.7%、特異度100%となります。
精度を簡単に書くなら、(66.7%+100%)/2=83.35%です。検査2
検査2では、200人調べて、陽性者が40人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
※筆者注 図は割愛。真陽性30人、偽陽性10人、偽陰性0人、真陰性160人という内容
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=10人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=0人
なので、この検査の場合は 感度100%、特異度94.1%となります。
精度を簡単に書くなら、(100%+94.1%)/2=97%です。
どちらも感度、特異度の計算はいいのですが、どうして「精度を簡単に書くなら(感度+特異度)/2」という計算になるのでしょうか?
精度の厳密な定義は書かれていませんが、「そんな計算してどうするの?」としか思えません。
ツイッターでの説明
ツイッターでの説明というか、なとろむ氏から説明を求められて言っていることが変わっている気もしますが、いくつかピックアップします。
感度について
そもそも、私は貴方が言ってるような感度の定義をした事がありません。私が言っているのは「精度が70%でかつ特異度が100%」の場合、100人に検査したら30人が偽陰性となる。という意味です。
この一連のツイートを読んでも理解できないなら知識がなさすぎます。https://t.co/fWZyd4sb49 pic.twitter.com/Ubl7THpTSH— いいな (@iina_kobe) July 17, 2020
そもそも、私は貴方が言ってるような感度の定義をした事がありません
これがいまいち何を指しているのかわかりませんが、ブログでは感度の説明をしているのに、「定義をしたことがない」とは?
精度の計算について
午前10:16 · 2020年7月19日
https://t.co/OpkiH0F6rp
どうぞ。
精度なんて言葉は基本中の基本であり、医師の方々が知らないとは思ってもいませんでした。
ちなみに、私は「(感度+特異度)/2」なんていう雑な計算方法はしておりませんので、あしからず。
貴方の読み間違いです。— いいな (@iina_kobe) July 19, 2020
私は「(感度+特異度)/2」なんていう雑な計算方法はしておりません
ブログでは「簡単に書くなら(感度+特異度)/2」という計算をしているように見えますがね。
「簡単に書くなら」であって厳密には違うのかもしれませんが。
「検査全体の感度」と「いいな氏の言う精度」
午後5:03 · 2020年7月20日
精度を検査全体の感度としてもう一度読んでください。
現在、RTPCR検査全体の感度(私のいう精度)が70%であるというデマを医師たちがばらまいてます。要するに、1000人検査したら300人が偽陰性か偽陽性となり真の結果と異なる。という事です。
しかし、ここには大きな間違いがあります。— いいな (@iina_kobe) July 20, 2020
現在、RTPCR検査全体の感度(私のいう精度)が70%であるというデマを医師たちがばらまいてます。
午後5:16 · 2020年7月20日
現在では検査全体の感度(私のいう精度)がほぼ100%なのに、何故か医師は今でもRTPCR検査の感度が70%だと言っております。
だから、おかしいよ?と私は言っております。
preRTPCRとRTPCRをきちんとわけて考えていただければ、検査全体の感度が70%なんて事は無いと分かってもらえると思います。— いいな (@iina_kobe) July 20, 2020
検査全体の感度(私のいう精度)
午後5:34 · 2020年7月20日
そもそも、貴方や医師のいう「検査全体の感度」という言葉が意味不明なのです。それは何に対する感度ですか?検査全体の特異度はいくらなんですか?
検体採取の感度が成功率=RTPCRの過程において偽陰性となる要因 はわかりますが、検体採取が偽陽性となる要因って、コンタミの事ですか?— いいな (@iina_kobe) July 20, 2020
そもそも、貴方や医師のいう「検査全体の感度」という言葉が意味不明なのです。
意味不明で理解できないことは誰にでもあるでしょうが、ではその前で「現在、RTPCR検査全体の感度(私のいう精度)が70%であるというデマを医師たちがばらまいてます」と言っていたのは何なのでしょうか?
素直に受け取ると、「検査全体の感度」という言葉が意味不明であれば、「いいな氏の言う精度」も意味不明ということになると思いますが。
また、感度についての説明は、いいな氏のブログでもされていて、まるっきりそのままだと思うのですが。
正診割合と精度
午前9:14 · 2020年7月21日
おそらく貴方のいう正診割合が、私のいう精度です。科学の分野では診断はおこないませんので、正診割合なんて言葉は使用しません。
また、貴方の例でいう感度70%特異度100%の仮定は、「RTPCRの過程」の話であり、貴方のいう正診割合ではありません。— いいな (@iina_kobe) July 21, 2020
おそらく貴方のいう正診割合が、私のいう精度です
午前9:28 · 2020年7月21日
してません。精度(正診割合)が70%と言うことは、100人調べて70人を正確に診断できたということ。特異度が100%なら、残りの30人は感度が低いが上に生じた誤診であります。
よって間違っておりません。冷静に考えてください。— いいな (@iina_kobe) July 21, 2020
精度(正診割合)が70%と言うことは、100人調べて70人を正確に診断できたということ。特異度が100%なら、残りの30人は感度が低いが上に生じた誤診であります。
ここで、「いいな氏の言う精度=正診割合」と出てきました。
ですが、いいな氏のブログの例で計算すると、正診割合は(真陽性+真陰性)/全数ですので、
検査1(真陽性20人、真陰性170人、全部で200人):(20+170)/200=0.95
検査2(真陽性30人、真陰性160人、全部で200人):(30+160)/200=0.95
どちらも95%ということになります。
ですが、いいな氏はブログでそれぞれ「83.35%」「97%」としています。この違いはどう説明されるのでしょうか?
そもそもいいな氏の中で「精度」の定義がされていなかったのではないかというのが濃厚ですが。
感度、特異度と正診割合
ちょっと脱線して、いいな氏のブログの「検査1」と同じく「感度66.7%、特異度100%」という検査があったとして、正診割合を計算してみます。
有病割合が15%の場合
いいな氏のブログの例と同じですので、正診割合は95%です。
有病割合が50%の場合
200人いたとすると、感染しているのは100人、感染していないのも100人。
感度は66.7%なので真陽性67人、偽陰性33人。特異度100%なので偽陽性0人、真陰性100人。
正診割合は、(67+100)/200=0.835 つまり、83.5%です。
有病割合が100%の場合
200人いたとすると、感染しているのは200人、感染していないのは0人。
感度は66.7%なので真陽性133人、偽陰性67人。感染していない人はいないので偽陽性0人、真陰性0人。
正診割合は、(133+0)/200=0.665 つまり、66.5%です。
このように、有病割合によって感度と特異度が同じでも正診割合は変わります。
結論
そもそも、医師の使っている用語といいな氏の使っている用語が一致しておらず、話がかみ合わないのだと思います。
また、
あ、そうなのですか。私は用語よりも現実を重視しちゃいます。すいません。
RTPCRの感度特異度共にほぼ100%だというのは現実に真なのに、なぜ医師の大半が感度70%だなんて言うのか?がわからないんですよ。
私は、検査の過程で、検体採取の正確率が30%〜70%だったからでは?と言ってるだけですよ。— いいな (@iina_kobe) July 21, 2020
RTPCRの感度特異度共にほぼ100%だというのは現実に真なのに、なぜ医師の大半が感度70%だなんて言うのか?がわからないんですよ。
私は、検査の過程で、検体採取の正確率が30%〜70%だったからでは?と言ってるだけですよ。
と、医師側は「検体の採取から判定まで」を含めての話をしているのに対し、いいな氏は「RTPCRの感度特異度共にほぼ100%だというのは現実に真」と、そこに固執して離れようとしないのもこじれる原因になっていると思います。
「検体の採取から判定まで」も含めてPCR検査と呼んで、その感度が低いと言われるのが気にくわないのなら、医師側が言っているのは「鼻ぐりぐり判定」とでも捉え、その感度と理解すればいいのでは?
唾液を使っての検査もあるので、「鼻ぐりぐり判定」「唾液判定」のように呼び分けるとか。
ただ、いいな氏は「精度」を明確に定義し、説明した方がいいと思いますが。「精度=正診割合」ということであれば、ブログの説明の間違いを認め、どうしてそのような「計算ミス」をしたのかも考えるべきでは。
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