輸出企業が消費税の還付を受けることに対して「輸出戻し税」などと批判する向きがあります。
そもそも、消費税を支払う(負担する)のは消費者ですが税務署に納める義務があるのは事業者で、税務署に対して納める額は「商品などの販売時に受け取った消費税」から「仕入れ時に支払った消費税」の差額です。
輸出企業が消費税の還付を受けるのは、海外で販売する場合には(日本の)消費税はかからないので、その分「商品などの販売時に受け取った消費税」が「仕入れ時に支払った消費税」より少なくなるからです。
「輸出戻し税」を批判している記事の問題点
全国商工新聞のサイトに掲載されている「輸出大企業に消費税1.2兆円超還付 税率10%で1810億円増大」という記事の問題点を指摘していきます。
輸出企業は消費税を払っていないのか?
消費税10%への増税を国民・中小業者に押し付け、コロナ禍で売り上げが激減している中小業者は「消費税が払えない」と悲鳴を上げる一方で、消費税を1円も納めていない輸出大企業に莫大な消費税が還付されている実態が明らかになりました。
消費税を1円も納税せず、還付金がもらえるのはどうしてでしょうか。
「消費税を1円も納めていない輸出大企業」「消費税を1円も納税せず」とありますが、確かに税務署に対して納めているわけではありませんが、仕入れ時に消費税を払っており、だからこそ還付を受けることができるのです。
海外では「超軽減税率」が適用されるのか?
私たちが知っている消費税の税率は10%(軽減税率は8%)ですが、輸出売り上げに限り0%という超軽減税率を使うのです。
「軽減税率」だと「本当は通常と同じ税率で課税することもできるが法律の定めにより税率を通常より下げる」という意味になると思いますが、国外ではそもそも課税できず、これを「超軽減税率」と呼ぶのは間違っていると思います。
トヨタ自動車への還付金の計算の間違い
国内売上高や仕入れ等の額(いずれも推定)に対して10%を乗じて「売り上げに対する税額」「仕入れ等に対する税額」を計算していますが、それぞれ税込みの金額のはずで、「10/110」を乗じなければいけません。
大きな違いは出ませんが、それくらい元教授で税理士なら間違えないでいただきたい。
トヨタ自動車の決算は「税抜方式」とのことで、この指摘は間違いでした。お詫びして訂正します。
消費税の還付は「横取り」なのか?
税金の還付とは、例えば年末調整で税金が返ってくるときのように、自分が税金を納め過ぎたとき還付してもらうことをいいます。消費税の還付金は、下請けや仕入れ先が税務署に納めた消費税分を、自分が納めたものとみなして返してもらうのです。これはいわば「横取り」です。どうしても還付したいというなら、実際に税務署に納めた下請けや仕入れ先に還付すべきです。
直接税である所得税と間接税である消費税を比べるのもどうかと思いますが。
前でも説明していますが、輸出企業も仕入れなどの時に仕入れ先に消費税を払っているわけです。それを「自分が払ったものと見なさない」とするなら仕入税額控除の否定であり、「仕入れで消費税を払っていようと受け取った消費税は全て納めなければならない」ということになり、逆に二重に消費税が取られることになります。
共産党の主張を確認
消費税の批判といえば共産党が思い浮かびますので、「輸出戻し税」に関するものを探してみました。
問題は、消費税の還付制度そのものにあるのではなく、大企業が下請けに消費税分を押し付けていることにあります。しかも、輸出企業に限らず、国内販売が中心の大企業でも、下請けに押し付ければ、その分が「もうかる」ことになります。
大企業が下請けに消費税分を押し付けている場合、この「輸出戻し税」は下請けが身銭を切って負担した税金です。大企業が消費税を下請けにきちんと払うようにさせ、下請けの負担をなくすことが重要です。
2012年、2013年と少し古いものですが、「輸出戻し税(消費税の還付)が問題なのではなく、大企業が下請けに消費税を押し付けていることが問題」と書かれています。
実際、広島東洋カープという残念な事例もありますし、そのようなことは起きているのでしょう。ですが、これは輸出企業が還付を受けることによって押し付けた消費税の分が利益になるのではなく、消費税を押し付けた時点で利益になっており、「輸出戻し税」とは関係のない問題です。
参考
具体的に例を挙げて計算しているサイトもあります。気になる方は見てみてください。
結論
消費税の批判をするなら正しく批判すればいいのに、と思います。「輸出戻し税」などと声高に批判するのはやめましょう。
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